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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)1号 判決 1965年3月31日

控訴人 高田茂登男

被控訴人 人事院 外一名

訴訟代理人 横山茂晴 外六名

主文

一、本件控訴棄を却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

控訴人の本訴請求が失当であることは左記事項を附加する外原判決の理由説示と同一であるからその記載を引用する。

一、控訴人は行政監察の目的は単に行政運営の改善だけではなく「非違の糾弾」をも含むべきものであると主張するけれども行政監察の目的が専ら行政運営の改善にあることは原判決の認定するとおりであつて、控訴人の援用する監察業務運営要領(乙第四号証)もその第一条ならびに第三条の規定からすると専ら予防的措置によつて不正不当行為及び国損の防止を図り、公務員の紀律の保持に資するもので非違の糾弾に編することは避けることにあることは明白である。

控訴人は甲第一九号証の「行政監察年報」昭和三〇年版の"するが、だからと謂つて当然に行政管理庁が非違の糾弾を実施する職責を負うことにならない。行政運営の改善は、前叙のように将来に向つた予防的措置であつて、非違の糾弾に編することは避けるにあるものであつて、その性質上過去に生じた違法不当な行為に対する責任の追求とは種々の面で異なつて居り、その両者を同一機関で遂行することは困難な問題があるのである。従つて控訴人の見解は行政監察制度の趣旨を正当に理解したものとは到底謂うことができない。

控訴人主張の「保健所の行う公衆衛生行政の監察」の実施についてその主張のような措置が執られたとしても、単にその一事を以て行政監察の目的が非違の糾弾にあると断ずることはできない。

二、控訴人は本件取材文書の内容は実質的に秘密に該当しないと主張する。しかし本件取材文書の内容は公表を禁止されていたものであるから、秘密としての要件を具備していると謂うことができるのであつて、このような公表の禁止は原判決認定の通り合理的な理由があるのであつて、実質的にみても不当でないのである。控訴人は違法不当行為や行政上の不備欠陥を秘密にする理由はないというが、行政運営の改善の資料とする目的のために関係行政機関の自発的協力の下に収集されたものを、一般職員が上司の承認を得ずにみだりに外部に公表するのを禁止することが原判決認定のように合理的であつて、この合理性が肯定される以上公表を禁止された文書の内容を秘密として扱うのに妥げはないはずである。

このことは行政機関の違法不当行為についても同様である。このような事実を公表するに当つては、その根拠が確実でなければならず、また公表の内容形式等に十分な考慮を用いなれば、不当に行政機関の信用を失墜し、個人の名誉を毀損するおそれもあるばかりでなく特に収集された資料は公表されるのが建前ということになれば、調査にあたつて行政機関の自発的な協力が得難くなり、強制調査権のない行政管理庁としては非違の糾弾はおろか行政運営の改善さえ著るしく困難になるおそれが多分にあるのである。従つて違法不当の事実であつてもその公表には慎重な考慮が必要であつて、個々の職員の自由に委ねられず従つて控訴人の見解は採ることができない。

三、また控訴人は行政運営の改善のためには公務員の責任追求や国損の補填の措置が必要だと主張する。刑事処罰や公務員法による懲戒処分、会計法上の責任追求等が一般予防の効果を有しているとしても、違法不当な事態の発生の防止には、該事態の生じた原因となる行政運営上の欠陥を発見し、これを除去することによつて根本的な解決をはかるという方策もあるのであつて、行政監察はこの面を任務としているのである。行政運営の改善のためには有効なことはすべて行政管理庁で実施しなければならないというわけではない。控訴人の見解は行政監察の目的が非違の糾弾にあること前提とするものであつて、到底採用することができない。

四、控訴人はさらに、違法不正の事実を公表した結果行政機関の信用が失墜されたり、個人の名誉が毀損されても当然であると主張するけれども、収集した資料を不用意に公表すれば、不当に信用失墜や名誉毀損を生ずるおそれのあることは前叙認定の通りであり、また各行政機関で秘密とする事項がたまたま調査資料に含まれていることもありうるところであるから、この点からも資料の取扱は慎重を要するのであつて控訴人の主張は理由がない。

五、控訴人は控訴人の行為の正当性について主張するが、控訴人は行政監察の本来の目的でない非違の糾弾に熱中する余り、組織の一員たる立場を無視して公務員としての職務上の義務に違背したものであつて、その主張は失当である。行政事務の運営処理についての見解の相違があつても、組織の一員たる者は最終的には上司の見解に従うべきものであるにかかわらず、自己独自の見解を固守しこれをあくまで貫かうとするが如き態度性格の者は、その職に必要な適格性を欠くものというべく、かかる者は組織から排除されても止むを得ない。

六、其の他原判決の認定に反する控訴人の所論は採用することができない。

従つて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第九

五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 菊地庚子三 花渕精一 山田忠治)

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